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消えゆくヤクザ ― 裏社会の現在と未来

構成員は激減し、残った人々も高齢化が進む。足を洗っても口座すら作れず、社会に戻れない元構成員という難題。消えゆく暴力団のいまを、報じられた範囲の事実から見つめ、美化も断罪もせず、裏社会の未来をめぐる問いとして全10話を静かに締めくくる。

2026年6月13日

前回、私たちは弱体化し分裂していく暴力団と、その空白に現れた半グレや匿名・流動型の集団を見た。看板を掲げた巨大組織という意味での裏社会は確かに細り、被害をもたらす仕組みは、より見えにくいかたちへと移り変わっていった。

この連載は、近世の博徒や的屋から始まり、焼け跡の闇市、高度成長期の組織化、興行や建設に寄生したカネの流れ、抗争と社会不安、バブルの狂騒、そして暴対法と暴排条例による包囲までをたどってきた。最終章では、その物語の現在地に立つ。激しく減り、確実に老いていく暴力団。そして、足を洗ってもなお社会に戻りきれない人々が抱える課題。裏社会はどこへ向かうのか――答えを急がず、見えている事実の範囲で、静かに考えてみたいと思う。

減り続け、老いていく

数字は、ある時代の終わりを淡々と告げている。警察庁の統計によれば、暴力団の構成員と準構成員を合わせた勢力は、二〇二三年末で約二万四百人と、過去最少を更新したと報じられた。最盛期の一九六〇年代前半には十八万人を超えていたとされるから、半世紀あまりで、ほぼ十分の一にまで縮んだことになる。

減少と並んで進んでいるのが、高齢化である。報道によれば、構成員の平均年齢は十年前より大きく上がり、五十歳を超えたとされる。五十代以上が全体の半分以上を占める一方、若い世代の流入は細っており、二十歳未満はごくわずかと伝えられている。新しく入る者が減り、残った者が年を重ねていく。これは一つの組織が、次の世代へと自らを引き継げなくなっていることを意味する。検挙される人数も二年続けて一万人を下回ったと報じられ、数の上では、暴力団は静かにしぼんでいるのだ。

  1. 1960年代前半

    暴力団構成員は18万人を超えたとされ、戦後の最盛期を迎える。

  2. 1992年

    暴力団対策法が施行され、団体を指定して活動を規制する仕組みが始まる。

  3. 2011年

    暴力団排除条例が全国で出そろい、社会からの締め出しが本格化する。

  4. 2023年末

    暴力団勢力が約2万400人と過去最少を更新し、平均年齢は50歳台と報じられる。

足を洗っても、戻れない

縮んでいく組織の内側で、静かに重みを増している問題がある。組織を離れた人々――足を洗った元構成員が、社会に戻ろうとして直面する壁である。

組織を離脱しても、すぐに普通の暮らしへ移れるとは限らない。職を得ようにも過去が壁になり、住まいを借りるのも容易ではない。なかでも象徴的なのが、銀行口座をめぐる問題である。多くの金融機関は、暴力団との関係を断つために、離脱から一定期間――しばしば五年とされる――が経つまで口座の開設に応じない運用をとってきたと報じられている。いわゆる「元暴五年」と呼ばれる扱いである。給与の受け取りも、公共料金の支払いも、口座がなければ立ちゆかない。やり直そうと決めた人が、その入り口で足止めされてしまう。実際に、離脱から五年以上が過ぎたのに口座を作れないのは不合理な差別だとして、元構成員が金融機関を相手に訴えを起こしたと報じられた例もある。

近年では、こうした課題への対応も動き始めている。警察庁や各地の暴力追放運動推進センターが、離脱者の就労や口座開設を支えようとする取り組みを進めていると報じられている。離脱を支える人数は年間でおよそ六百人ほどとされ、戻る道を細いながらも開こうとする努力が、断ち切る努力と並んで続いている。締め出すことと、戻る道を残すこと。その二つをどう両立させるかが、いまの裏社会対策に問われている。

裏社会の未来をめぐる問い

では、裏社会はこれからどこへ向かうのだろうか。この連載をここまで読んでくださった方には、安易な予言を差し出さないことこそが、誠実な締めくくりだと感じていただけるかもしれない。

確かなのは、いくつかの方向である。看板を掲げた巨大組織としての暴力団は、数と世代の両面で縮小を続けている。一方で、半グレや匿名・流動型の集団のように、組織の輪郭を持たない犯罪のかたちは残り、むしろ見えにくくなっている。そして、足を洗った人々の社会復帰という、人間そのものをめぐる課題が、組織の盛衰とは別の重みで横たわっている。減っていくもの、形を変えるもの、残り続けるもの――裏社会の未来は、この三つの流れが絡み合うなかにある。

ヤクザは、美化されるべき任侠の徒でも、ひとくくりに断罪して済む怪物でもなかった。それは、戦後日本という社会が生み出し、長く付き合い、そしていま手放しつつある、一つの構造である。消えゆくその姿を見送りながら、私たちは断定を避けたいと思う。終わったのは何で、残っているのは何なのか――その問いを抱えたまま、この物語を閉じる。

最後まで読み進めてくださった読者のみなさんに、心から感謝する。長い旅路にお付き合いいただき、ありがとうござった。

【ヤクザと戦後日本 ― 裏社会の経済史・完】

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