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テクノロジー冷戦 — 半導体・5G・データ

関税の応酬は、やがて技術そのものをめぐる戦いへと姿を変えた。ファーウェイ制裁、半導体の輸出規制、5Gとデータの覇権。米中は世界経済を二つに切り分けようとし始める。デカップリングと呼ばれた、新しい冷戦の最前線を史実でたどる。

2026年6月12日

関税の応酬は、米中が「どちらが安く売るか」を争う戦いだった。しかし両国はやがて、もっと深い場所に本当の戦場があることに気づく。それは、次の時代を動かす技術そのものだった。

スマートフォンを動かす半導体。世界をつなぐ通信規格。人々の暮らしから生まれ続ける膨大なデータ。これらを握った者が、経済と軍事の両面で未来の主導権を手にする――。関税という入口を抜けた米中の対立は、ここから一気に、技術をめぐる冷たい戦争へと姿を変えていった。

ファーウェイ ― 最初の標的

技術冷戦の象徴となったのが、中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)だった。同社は世界トップクラスの通信設備メーカーであり、次世代通信規格である5Gの主導的な担い手でもあった。

アメリカは、ファーウェイの機器が安全保障上の脅威になりうると主張する。通信網という社会の神経網に中国企業の設備が深く入り込めば、情報が抜き取られたり、有事に機能を止められたりする恐れがある――。こうした懸念から、2019年5月、米商務省はファーウェイをエンティティ・リスト(事実上の輸出規制対象)に加えた。アメリカの技術や部品をファーウェイへ売るには、政府の許可が必要になったのだ。

規制は段階的に強められていく。2020年には、アメリカの技術を使って外国でつくられた半導体さえもファーウェイへの供給が制限されるよう、ルールが拡張された。世界中の半導体メーカーが、米国製の製造装置や設計を使っている以上、この網からは逃れられない。スマートフォンの心臓部である最先端チップを断たれたファーウェイは、主力事業で大きな打撃を受けたと報じられた。

半導体 ― 戦略物資となった「産業のコメ」

ファーウェイへの制裁は、より大きな戦いの序章にすぎなかった。米中が真に争ったのは、あらゆる電子機器の頭脳となる半導体そのものの支配権である。「産業のコメ」とも呼ばれるこの極小の部品は、スマートフォンから兵器、人工知能まで、現代文明のすべてを動かしている。

アメリカは二つの方向から動いた。一つは「守り」――2022年8月、バイデン大統領はCHIPS・科学法に署名し、巨額の補助金で半導体の国内生産を後押しする。アジアに偏った製造を自国へ呼び戻し、サプライチェーンの強靭化を図る狙いだった。

もう一つは「攻め」――2022年10月7日、米国は中国向けの先端半導体について、これまでにない包括的な輸出規制を打ち出する。人工知能の学習に使われる高性能チップや、それをつくる製造装置を、中国へ売ることを厳しく制限したのだ。狙いは、中国が最先端の計算能力を軍事に応用するのを食い止めることにあるとされた。

  1. 2019/5

    米国がファーウェイをエンティティ・リストに追加。先端半導体の供給が制限される。

  2. 2020

    規制が拡張され、米国技術を使った外国製の半導体までファーウェイ向け供給が制限。

  3. 2022/8

    米国でCHIPS・科学法が成立。巨額補助金で半導体の国内生産を後押し。

  4. 2022/10

    米国が中国向け先端半導体・製造装置に包括的な輸出規制を発動。

  5. 2023/3

    EUのフォンデアライエン委員長が「デカップリングではなく、デリスキング」と表明。

中国もただ手をこまねいていたわけではない。半導体の自前化を国家の最優先課題に掲げ、巨額の資金を投じて国産化を急ぐ。外国の装置や材料への依存を一段ずつ減らし、いずれは自国だけで完結する供給網を築こうとしている、と報じられた。技術を断たれた国は、断たれたからこそ自立を急ぐ。規制は、皮肉にも中国の独自開発に火をつけた面もあると評されている。

二つに割れる世界 ― デカップリング

ファーウェイ制裁から半導体規制へ。一連の流れが指し示したのは、米中が世界経済を二つに切り分けようとしている、という現実だった。この動きはデカップリング(切り離し)と呼ばれる。

冷戦時代、世界は西側と東側の二つの陣営に分かれていた。いま起きつつあるのは、それに似た分断である。ただし今度の分断線は、軍事同盟ではなく、技術の標準とサプライチェーンの上に引かれる。どちらの規格を採用するか、どちらの通信網を使うか、どちらのチップで人工知能を動かすか――。世界の国々は、米中いずれの技術圏に属するかを、静かに問われ始めたのだ。

ただし、完全な切り離しは容易ではない。米中の経済はあまりに深く絡み合っており、すべてを断てば双方が大きな痛手を負う。そこで2023年ごろから、欧米ではデリスキング(リスク低減)という、より穏やかな言葉が使われ始めた。全面的に縁を切るのではなく、安全保障に直結する先端分野に限って依存を減らす――。完全な分断と全面的な相互依存の、その中間を探る現実的な路線である。とはいえ、どこまでを切り離し、どこを残すのか。その線引きをめぐる綱引きは、いまも続いていると言われている。

見えない戦場の、見える帰結

技術冷戦には、砲声も戦車もない。けれども、その帰結は私たちの日常に確かに及んでいる。スマートフォンの値段、新しいサービスが使えるかどうか、そして国の安全保障まで――半導体一枚をめぐる攻防が、社会の隅々に影響を広げているのだ。

そして米中が技術圏を分かち、サプライチェーンを引き直そうとするとき、誰もが同じ一点に視線を吸い寄せられていった。世界の最先端半導体の大半を、たった一つの島が生産しているという事実である。もしその島が戦火に巻き込まれれば、技術冷戦は一瞬で熱い戦争へ転じかねない――。半導体も、地政学も、米中の対立も。すべての火種が、ひとつの島に集まろうとしていたのだ。

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