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お金の未来 — CBDCとこれから

国家なきお金の登場に、各国の中央銀行が応える番が来た。中央銀行デジタル通貨CBDC、進むキャッシュレス、そして消えない現金。デジタルの彼方で問われるのは、5000年変わらなかったお金の本質――信用とは何かという、最初の問いへの回帰である。

2026年6月12日

前話で見たビットコインの登場は、お金の世界に小さくない波紋を投げかけた。国家にも銀行にも頼らないお金がありうる――その問いかけは、長らくお金の発行を独占してきた国家を、静かに刺激する。もし民間の手による新しいデジタル通貨が広がり、人々がそちらを使うようになったら、国家が通貨を通じて経済を支える力は弱まってしまうかもしれない。そうした懸念が、世界の中央銀行を動かしはじめた。

ならば、国家みずからがデジタルのお金を発行してはどうか。こうして注目を集めたのが、中央銀行デジタル通貨――頭文字をとってCBDCと呼ばれる構想である。お金の歴史が紙から数字へと進んできた、その先にある一つの可能性として、世界の中央銀行が研究と実験に乗り出していった。

中央銀行が発行する、デジタルのお金

CBDCとは、中央銀行が発行するデジタル形式の通貨を指する。私たちがふだん使う紙幣や硬貨を、中央銀行が直接デジタルで発行するもの、と考えると分かりやすいかもしれない。

ここで大切なのは、すでに普及している電子マネーやコード決済との違いである。それらの多くは、民間の企業が提供するサービスであり、その背後では結局、銀行預金や現金がやり取りされている。これに対してCBDCは、中央銀行そのものへの信用に裏づけられた、いわば「デジタルの現金」を目指すものとされる。停電や災害でネットワークが使えなくなったときにどう支払うか、誰がどれだけ使ったかという記録をどこまで守るか――解決すべき課題は多く、各国はなお慎重に検討を重ねている段階である。

世界の動きと、進むキャッシュレス

CBDCへの取り組みは、国によって速度も方針も大きく異なる。

中国は早くからデジタル人民元の実証を進め、実用化に近いとされる国の一つに数えられる。欧州ではデジタルユーロの準備が段階を踏んで進められていると伝えられ、すでに正式に発行に踏み切った国や地域もある。一方で、CBDCの開発を見送り、民間のデジタル通貨を促す方針に転じたと報じられる国もある。日本銀行も概念の検証や実験を重ねてきましたが、現時点で発行を決めたわけではなく、将来の環境変化に備えた準備を進める、という立場をとっていると伝えられる。

  1. 2009

    ビットコインが稼働し、非国家のデジタル通貨という発想が現れる。

  2. 2020前後

    主要国の中央銀行がCBDCの研究・実証を相次いで本格化。

  3. 2021

    正式にCBDCを発行する国や地域が現れる。

  4. 2020年代

    デジタル人民元やデジタルユーロなどの実験が各地で進展。

  5. 現在

    発行の可否や設計をめぐり、各国が慎重に検討を続けている。

CBDCの行方とは別に、現実の決済はすでに急速にデジタルへと傾いている。スマートフォンをかざすだけで支払いが済み、現金を持ち歩かない暮らしも、いまや珍しくない。北欧などには、日常から現金がほとんど姿を消したとされる国もある。日本のキャッシュレス決済の比率も年々高まり、社会全体のお金のかたちは静かに、しかし確かに変わりつつある。

それでもなお、現金が完全に消えるわけではない、という見方も根強くある。災害や通信障害でデジタルが止まったとき、最後に頼れるのは手元の現金だという指摘。記録の残らない支払いを望む人がいるという現実。誰もがデジタルを使いこなせるわけではないという配慮。便利さだけでは割り切れない理由が、現金を社会に留めている。

5000年を経て、最初の問いへ

ここで、私たちが歩いてきた長い道のりを振り返ってみよう。

貝殻や家畜が価値を運んだ時代から、リディアの硬貨が国家の刻印を帯び、中国が世界で初めて紙にお金の役割を託した。ルネサンスの商人が銀行を生み、世界は金の鎖でつながれ、やがてその鎖は断たれて、お金は金の裏づけを離れていった。紙は数字となり、数字はネットワークの上を駆けめぐり、ついには国家を介さないお金まで現れた――。

形は、これほどまでに変わった。けれど、その底に流れていたものは、驚くほど変わっていない。

CBDCが広く使われる未来が来るのか、現金がどこまで残るのか、暗号資産がどんな位置を占めるのか。その答えを、いま誰も確かには持っていない。技術は驚くべき速さで進むが、お金が信用の上に成り立つという本質は、おそらくこれからも変わらないだろう。新しいお金が信頼を勝ち得るのか、それとも古い信頼が形を変えて生き延びるのか。私たちはいま、その分かれ道のただ中にう。

お金の物語は、ここで結末を迎えるわけではない。それはこれからも、私たち一人ひとりが何を信じ、何を受け取るかによって、書き継がれていく。次にお金を手にするとき――それが硬貨であれ、紙幣であれ、画面の上の数字であれ――そこに5000年分の信用が宿っていることを、少しだけ思い出していただけたなら。この長い旅は、無駄ではなかったのだと思う。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうござった。

【お金の誕生 ― 貨幣と人類5000年・完】

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