英国から来た球技 — 二大クラブの誕生 — スペイン①
スペインサッカーは、スペイン人が始めたものではなかった。19世紀末、銅鉱山や電信会社で働く英国人労働者がボールを持ち込み、やがてスイス人がバルセロナを、学生たちがマドリードを創った。カタルーニャの誇りと首都の威信——対照的な二大クラブの誕生から、無敵艦隊への100年の物語が始まる。
2026年7月15日
2010年、南アフリカ。スペイン代表がワールドカップを掲げたとき、世界はこの国を「サッカー王国」として記憶した。だが、その情熱の起点をたどると、意外な事実に行き着く。スペインにサッカーを持ち込んだのは、スペイン人ではなかった。19世紀末、遠くイギリスからやってきた労働者たちが、余暇に蹴っていたボール。それが、やがて国を二分するほどの情熱へと育っていく。無敵艦隊への長い道のりは、この外来の球技から始まる。
- 1870年代
ウエルバの銅鉱山やビゴの電信会社で働く英国人労働者が、スペイン各地でサッカーを始める。
- 1899年
スイス人ジョアン・ガンペールがFCバルセロナを創設。のちカタルーニャ文化の象徴となる。
- 1902年
マドリードFC(のちのレアル・マドリード)が正式に創設される。
- 1929年
全国リーグ「ラ・リーガ」が開幕。初代王者はFCバルセロナ。
鉱夫たちが蹴ったボール
物語は、スペイン南部の鉱山から始まる。1870年代、アンダルシアのウエルバにあるリオ・ティント銅鉱山に、採掘の権益を得たイギリス企業「リオ・ティント・カンパニー」の労働者たちが渡ってきた。過酷な労働のあと、彼らは故郷の遊び——クリケットやラグビー、そしてフットボール——に興じた。ほぼ同じ頃、北西部ガリシアの港町ビゴにも、電信会社で働く英国人の一団が到着する。故郷を遠く離れた彼らは「エグザイルズ(追放者たち)」と呼ばれた。
こうして生まれたのが、リオ・ティントFC(1878年)やエグザイルズFCといった、スペイン最初期のサッカーチームである。公式の登録記録は残っておらず、正式なクラブとは言えなかった。だが、地元のスペイン人たちは、この見慣れぬ球技を熱心に真似ていった。イギリスへ留学し、パブリックスクールでサッカーを覚えて帰国した学生たちも、この普及に一役買った。外から来た遊びが、この国の土壌に根を下ろし始めたのだ。
バルセロナ ― 一枚の新聞広告から
やがて、外来の遊びは「クラブ」という形を得ていく。その象徴が、二つの巨大クラブの誕生だった。
1899年10月、バルセロナのスポーツ紙『ロス・デポルテス』に、一風変わった広告が載った。スイス人青年ジョアン・ガンペール(ハンス・ガンパー)が、サッカークラブを作る同志を募ったのだ。呼びかけに応じた11人が11月29日、ソレ体育館に集まった。スイス、カタルーニャ、ドイツ、イギリス——多様な出自の男たちが、初代会長ウォルター・ワイルドのもとで「フットボール・クラブ・バルセロナ」を旗揚げした。
このクラブは、単なるサッカーチームではとどまらなかった。バルセロナを州都とするカタルーニャは、独自の言語と文化を持ち、中央のマドリードとは異なるアイデンティティを抱えていた。バルサは次第にそのカタルーニャの誇りを背負う存在となり、やがて「Més que un club(クラブ以上の存在)」というスローガンを掲げるに至る。この言葉の重みが何を意味するのかは、次話で明らかになる。
マドリード ― 白いシャツの誇り
一方、首都マドリードでも動きが起きていた。1897年に生まれた「スカイ・フットボール」という学生クラブの分裂を経て、1901年にマドリードFCと改称。1902年3月6日、フアン・パドロスを会長として正式に創設された。
パドロス兄弟は、サッカーをあらゆる社会階層に開かれた大衆のスポーツにしたいと考えていた。シャツの色を白に定めたのは、当時の名門・英コリンシャンにならったものだった。この白いシャツは、のちに世界で最も有名なユニフォームの一つとなる。1920年、クラブは国王アルフォンソ13世から「レアル(王室の)」の称号を授かり、レアル・マドリードとなった。首都の、そして王室と結びついたクラブ——その出自は、カタルーニャの反骨を背負うバルサとは、あまりに対照的だった。
そして二つのクラブは、早くも出会う。1902年5月13日、アルフォンソ13世の戴冠を祝うコパ・デ・ラ・コロナシオンの準決勝。マドリードの古い競馬場で行われたこの一戦で、バルサがマドリードFCを3対1で下した。世界で最も熱く、最も長いライバル関係「エル・クラシコ」の、これが記念すべき第一戦である。1929年には全国リーグのラ・リーガが10クラブで開幕し、初代王者にはバルサが輝いた。舞台は整った。
外来の遊びから生まれた二大クラブは、やがてスペイン史上最も暗い時代を迎える。内戦、そして独裁。サッカーはこのとき、政治とアイデンティティが激突する戦場へと変わる。物語は、フランコの時代へと続く。
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